タグ別アーカイブ: タバコ 禁煙 禁煙ったー

なぜ、ぼくが禁煙できたか (1)

数ヶ月前に、「禁煙ったー」というサービスをつくりました。
サービスというか、自分が禁煙するときにつくった副産物です。
「禁煙ったー」は、禁煙したいひとが、TwitterのOAuth認証で登録すると、禁煙状態を、定期的に自動的にツイートして、鼓舞してくれるというもの。

おかげさまで、結構な数の人が登録してくれました。
(しごとで、広告で相対する量とは比較にならないけど)

いま「英語化してくれ」などとオーダーも入っていて、ひっそりと自分のために作ったものが、
予想外に反響が多いので、戸惑ってしまった。

でも、そんな宣伝がしたいのではなくて。
最近喫煙者から「タバコやめられたんだ!すごいねー!」という話をよくいただきます。
でも、ぼくは18歳のころから、13年間、一瞬もタバコをやめることができない、
精神の弱い男でした。

そんなぼくがどうやって禁煙できたか、ということを書きます。
そんで、禁煙できないみんなの一助になれば、幸いです。

●ぼくのタバコとのかかわり

まず、ぼくがタバコを初めて吸ったのは、16歳、高校一年生のとき。
そのときのことは、明確に覚えている。

突然、自宅に、中学時代の同級生から電話がかかってきた。

「はい、もしもし」
「ヒロキ?あのさ、ナガシマくんが亡くなったんだって…。あした葬式なんだけど、来る?」

突然の電話に、突然の内容。

中学のとき同級生だった、ナガシマくんが、心不全で突然死してしまった。

あの、テニス部のスポーツマンのナガシマくんが。
あけすけなく笑う、あのナガシマくんが。
ゴリラみたいな顔してるのに、いい性格でスポーツマンだから女子にモテた、あのナガシマくんが。

人の命って、そんな簡単になくなったりするものなのだろうか。
世の中はそうかもしれないけど、ぼくの周りの世界は違う。
ぼくたちの世代には、まだまだ未来がある!
漠然と、そんなことを信じていたときだった。
人は、死ぬ。
ぼくは、唖然としてしまった。
まだ、友人の死を、現実としてとらえられなかった。

翌日、ナガシマくんのお葬式。

火葬場に、久しぶりに、中学時代のクラスメートが集まった。
目の前で、業火に焼かれていくナガシマくん。
ぱちぱちという、爆ぜるような音。

中学時代、クラスのリーダー格の、オオカワくんが言った。

「お母さん、ちょっと……、タバコを吸ってあげていいですか」

ぼくは、オオカワくんの言っていることの意味がわからなかった。
が、ナガシマくんのお母さんは、涙ながらにうなづいた。

…と、友達が、急に意を決したように、ポケットからタバコを取り出した。
ぼくは、瞬時にして、何が起きたかを、理解した。

ナガシマくんは、不良仲間と、学校でタバコを吸っていたのだ。

まるで、キャンプファイヤーの前で語り合うかのように、
きっと、そのとき交わした多くの言葉と、たくさんの思い出を共有して、慈しむために、
いままたこうして、彼の火葬場の前で、天国のナガシマくんと一緒にタバコを吸う、という
イキな行為をしはじめたのである。
「タバコを吸ってあげていいですか」という言葉で。

ナガシマくんの両親も、きっと知らない、彼らだけの濃密な時間。
彼が死んだ今だから、固いことは言いっこなし。
彼の骸の前で、みんなでタバコを吸って囲むことが、彼の供養になるかもしれないから、
ご無礼をお許しくださいお母さん。そういう意味だったのである。

オオカワくんのイキな計らいは、当時のぼくにとって、メチャクチャカッコよく感じられた。
ぼくは、彼らのカッコいい心意気に賛同し、その仲間に入りたいと思った。

そのとき、焼かれたナガシマくんの骨が、トレイに運びだされてきた。
すこし、香ばしいにおいがした。
すぐさま、そう思った自分を恥じた。
ああ、ナガシマくんは、こんなモノに成り果ててしまったのか…!

そのとき、タバコ一味のフジタくんが、ぼくのほうを見て、タバコを差し出した。

「ヒロキも、吸う? あるよ。」

ぼくはタバコを受け取った。

ぼくは、ナガシマくんと仲がいいと思っていた。が、真の意味で仲間に入っていたわけではなかった。
ほんとうの親友は、今目の前でタバコに火をつけた、彼らのほうだ。
彼らは、ナガシマくんと、ちょっとスリルで、だからこそ何でも言い合える、ほんとうの時間を共有したにちがいない。
ぼくも、そうでありたい。
そんな彼らと同じ気持ちに、少しでもなりたい。

ぼくは、フジタくんのタバコを手にとった。

以前から、タバコの常習者だったかのような振る舞いを意識しながら。
ぼくは、ライターを持っていなかった。当然だ。喫煙者ではないのだから。
「ごめんフジタくん、火、ある?」
と、注意しながら尋ねた。

ナガシマくんの遺骨の前で、静かにタバコを吸うクラスメートたち。

フジタくんは何も言わずに、ライターを取り出し、火をつけてくれた。
タバコの先っぽを火にかざす。

……つかない。

あれ?

もういちどかざす。

……つかない。

「……吸うんだよ」

フジタくんが言った。

た、タバコは、吸わないと火がつかないのか!

なんという無知。
フジタくんに、ぼくがタバコ初心者だとバレたのではないか。
ぼくが、このナガシマくんの遺骨の前の神聖な場において、「なんとなくカッチョいいから仲間に入りたい」という適当なノリで仲間入りしようとしているということを察知したのではないか。

ぼくは、焦ってタバコを吸いこんだ。

「ゲホン!ゲホンゲホンゲホンゲホン!!ウェーーッホン!!」

ぼくは盛大に咳き込み、
ナガシマくんの遺灰が、宙を舞った。

仲間たちの、呆気にとられた目は、やがてぼくへの軽蔑するような眼差しに変わった。

ぼくは思った。
「タバコをちゃんと吸えるような大人に、早くなりたい」